なんでもやのさとしさん
合板の壁の向かい側からサトさんのいびきが響く。
サトさんの鼾は、洞穴で寝ている熊のようにうるさい。
1週間くらい前に
毎朝仕事の前に立ち寄るコンビニで、
“なんでもやのさとし”さんから「酒を飲みなさい」と助言を頂いてからというもの、
夜寝る前に晩酌をするようになった。
サトさんの鼾をBGMに安いウイスキーを飲んでる。
お酒には飲み方があるんだと30歳になってやっと気づく。
こんなに美味しものだと思わなかった。
甘くて、スモーキーで、アルコールが強い。
梅干しを想像すること以外に、こんなにも自分の唾液を欲したことはなかった。
ウイスキーは、舐めるんだとか、噛むんだとかよくわからない。
まだまだ訓練が必要だ。
きっと舌の甲がヒリヒリしてるのは、
なにか柔らかい突起が溶けて形を変えつつあるのかもしれない。